もうすぐ30歳になる娘。
ここ数年は家にいたが、仕事の都合で猫と一緒に家を出て3度めの一人暮らしを始めることになった。
会社の方針で、リモートワークが週4日から週1日に変ってしまった。娘の勤める会社がこのご時世に、どうしてそっちに舵を切ったのかわからない。ともかく、リモートで気楽に働いていた娘は電車が苦手で、途中下車しないで会社まで辿りつけるのは稀だ。片道一時間半の通勤はとても無理・・ということで、一旦腹をくくると親から見ても感心するほどの行動力で、短期間でぐいぐいと話を進めてマンションを契約し、新生活に必要なものを調べあげて買い集めた。
その間私のしたことと言えば、連帯保証人に必要な印鑑登録証を取りにマイカードを握りしめてコンビニへ行ったものの、自分の住む市ではコンビニで印鑑登録証が発行できないことを知り、その足で市役所に行って300円を投じて入手してきただけである。
そして無事、GWに引っ越すことになった。
ベッドや家電などの大物は新しく買い揃えるので、引っ越し業者は頼まず、自分の車で2往復くらいして小物を運ぶという。
手伝いはなくて大丈夫、と言っていたけど、さすがに一日くらいは一緒に行って荷下ろしを手伝うことにした。
手伝いの日は憲法記念日である。娘の運転で新居に向かう車中から、路線バスの前方についてる国旗が見えて、ほぉーと思う。
可愛い可愛い猫の「はな」と一緒に暮らす娘の新居は、駅から徒歩2分の10畳のワンルーム。近くに交番やコンビニやファミレスが集結しているうえに、スーパーが目の前にあって、便利で安心な場所だ。
到着してほどなくブラインドが届いたので、取り付け作業にかかる。カーテンレールに取付用の金具をはめ込む方式だ。部屋の東側と、南側の三分の一は窓がL字型に連なっている。その窓枠の下側に沿うように細長いカウンターが取り付けられているので、そこを足場にして作業をする。体力の衰えが気になるこの頃だけど、まだその程度の身の軽さは残っていて、良かった、と内心胸を撫でおろした。目線の少し上あたりで作業するので途中、上腕がしびれて来たけど、DIYとしては比較的簡単なものだろう。
ブラインドが終わると、今度はクッションフロアの敷き込みだ。フローリングに傷をつけないため、上から貼るのだそうだ。
フローリングの端にぐるりと、専用の両面テープを貼る。シートの幅に合わせて縦ラインにもテープを貼る。あみだくじのように横にも貼る。それから、クッションフロアを部屋の幅に合わせて切る。ビニール素材なので、簡単にはさみでカットできる。貼るのは簡単そうに思えたが、やってみると空気が入って途中が浮いてしまったり、計ったはずなのに長さが足りなかったり、微妙に合わせ目がずれて行ったりと中々難しい。二人で同じシートを貼ろうとするより、別々に作業した方が良いこともわかったから、途中から部屋のあっちとこっちを別々に担当する。最初は色々相談しながら進めていたが、敷き終わる頃には体力を消耗して無言になる。2時間ほどの作業だっただろうか。
細かい所が雑だったり、エアーが入ったりはしているが素人が初めて貼ったのだから、こんなもんだろう、上出来だ。それより気になるのは、なんだか腕がチクチクすることの方だ。肌の弱い娘はひじの内側や手首などが赤くなっている。「なんか、サボテンが刺さった時みたいなんだよね。」と言っている。私はそれほどでもなかったけど、掌に数か所、チクチクした痛みを感じた。
後で調べてみたら、クッションフロアの裏地に使われているグラスウールの破片が、肌にくっついて刺激しているのだそうだ。日本製のものは裏地の一番外側にグラスウールが入っているので、切ったり曲げたり貼ったりしているうちにそれが細かい破片となってチクチクするのだという。外国製なら大丈夫と書いてある。いろいろ製造上の理由があることとは思うけど、ここは日本のメーカーも外国に倣っていただいた方がみんなが気持ちよく作業ができるのでは?と思う次第である。
とにかく、よく働いた一日だった。慣れない作業を一気にやって体はすごーく疲れたけれど、疲労感が心地よい。明日はきっと筋肉痛で動けないと思うけど…。この先、生きていくために何かの仕事をしなければならないなら、パソコンに一日向かっているよりもクッションフロアを貼る方がどれだけ体に良いだろうと考えた。
さて、頼れる娘がいなくなって、自分の生活も見直す時期が来たようだ。これからの、長い老後をどう生きて行くか。
さしあたり60代でもOKなフロア貼りのバイト、ないだろうか。